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一人会社起業にも追い風!経営者保証問題の全容と今後の課題

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今回のトピックは、「経営者保証」

会社を経営する上で、多くの経営者が避けて通れない課題の一つが「資金調達」の問題です。
特に中小零細企業では、起業時や新規事業開発に必要な資金を確保するために、金融機関からの融資を受けることが一般的ですが、その融資を受ける際に経営者自身が保証人となる「経営者保証」が問題となります。

「経営者保証」は、経営者が個人の財産を担保に融資を受け、もし会社が倒産した場合にはその負債を経営者個人として返済しなければならないというリスクを孕んでいます。また、経営者の生活や家族をも巻き込んでしまう問題であり、企業の健全な成長を阻害する要因の一つとなっています。
その結果、「起業フェーズ」、「経営フェーズ」、「事業承継フェーズ」という企業の全てのライフサイクルに悪影響を及ぼしています。

しかし、2023年より経営者保証の枠組みが変化し、経営者保証を伴わず金融機関より融資を受けることのできる可能性が高まっています。この変革を活かし、これまでに比べ、個人としての返済リスクを低減して新事業へチャレンジする可能性が高まったといえるでしょう。

本記事では、この経営者保証問題の実態とその影響、そして今後の方向性などを探ることで、経営者自身や関連当事者の理解を深め、より良い起業エコシステムを創造する一助となることを目指します。

目次

金融機関融資の基本的な考え方

日本の中小企業では、事業運営資金を確保する手段として、”融資”が選択されるケースが多く見られます。
具体的には、東京商工会議所の公表データでは、創業期又は創業後当初3年間の資金調達手段として、政府系金融機関、信用金庫、信用組合、銀行からの借入れが多くなっています

「創業・スタートアップ実態調査(2022年4月)」単純集計結果①(東京商工会議所)

※各資金調達手段の特徴などは、以下の記事をご参照ください。

また、経営者が、銀行融資を選択する理由としては、以下のような理由が挙げられます。

1.低金利での資金調達
日本では、比較的低い金利で大きな額の資金を調達できること。
2.簡易な手続き
出資を伴う場合など条件交渉や契約締結など多くのプロセスが必要になる一方で、日本金融政策金融公庫の融資などは他の資金調達手段と比較して手続きが簡易であること。

そして、融資には、その企業の資金返済能力が評価されるプロセスがあります。
この評価プロセスは、企業の信用情報、経営者の信用情報、過去の業績、経営陣の能力、業界の状況などを基に行われます。そして、金融機関はその評価結果に基づき、融資の可否を決定し、利率などの融資条件を設定します。

このように、日本の中小企業においては、この融資の際に経営者自身が保証人となることがこれまで一般的でした。
これが「経営者保証」と呼ばれ、経営者が個人の資産を担保にして会社の借入れを保証します。この経営者保証にはリスクが伴うことから、これまで問題となってきました。

以上のような基本的なメカニズムを理解した上で、経営者保証問題について詳しく見ていきましょう。

経営者保証問題の影響

経営者保証が問題となるのは、企業が返済不能に陥った場合、経営者自身が個人の財産でその負債を弁済しなければならない点です。経営者が保証人となることで生じるリスクは、以下のように、その経営者の財務状況や生活、さらには家族にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。

問題点①:経営者自身の財務状況に関わるリスク
経営者が保証人となることで、個人の財産が企業の借入金の担保となります。企業が返済困難に陥った場合、経営者は自宅など自身の財産を売却したり、借金を返済するために新たな借入れをせざるを得なくなることもあります。この結果、経営者自身の信用情報が悪化し、生活環境や将来の金融取引に影響を及ぼす可能性があります。
問題点②:経営者の家族への影響
経営者保証により企業の借入金を返済する責任が経営者に及ぶと、その負担は家族にも影響を及ぼすことがあります。例えば、住む場所を失われたり、家族の生活費が不足したり…といった問題が発生する可能性があります。
問題点③:経営者保証が経営判断に与える影響
経営者の新規事業への投資意欲を抑制する可能性もあります。これにより、企業の成長を阻害し、経済全体にも悪影響を及ぼす可能性があります。

このような問題の解決を図るためには、まずは経営者自身が、これらのリスクをしっかりと理解することからはじまります。

企業のライフサイクルにおける経営者保証問題

企業の各ライフサイクルにおいて、経営者保証が引き起こす問題は以下の通り。
「創業フェーズ」:新規起業進まない
「経営フェーズ」:新規投資進まない
「事業承継フェーズ」:事業承継進まない

企業のライフサイクルを「創業フェーズ」、「経営フェーズ」、「事業承継フェーズ」の3つに区分けすると、
経営者保証問題は、以下のような問題を引き起こします。

1. 創業フェーズ
創業段階では、会社としての信用情報や過去の業績実績がないため、銀行からの融資を受けるには経営者自身が保証人となるケースがあります。この結果、企業が倒産した場合、経営者は個人の財産を失うリスクに直面します。これにより、創業意欲が低下し、新規起業数が増加しない要因となっています。
2.経営フェーズ
企業が利益を出し始め、拡大を続ける経営段階でも、経営者保証は引き続き重要な課題です。
この段階で投資や拡大を図るためには追加の資金が必要となる場合があり、そのためにはさらなる融資が必要となることが多いです。しかし、その都度経営者保証を行うと、経営者の個人的な財産がさらにリスクにさらされる可能性があるため、新規投資が進まない要因となってしまいます。
3.事業承継フェーズ
事業承継段階では、経営者保証問題はさらに複雑になります。経営者が退任し、新たな経営者が事業を引き継ぐ場合、既存の借入金に対する経営者保証をどのように扱うかが問題となります。旧経営者が引き続き保証人となる場合、その人が事業と直接関わらなくなった後もリスクを負担し続けることになります。一方で、後継者が保証人となる場合、後継者は旧経営者が取ったリスクに対する責任を負担することになり、これが事業承継の障壁となります。

以上のように、起業経営のライフサイクルの各段階で、経営者保証は様々な問題をもたらします。これらの問題を解決するために、経営者保証問題の抜本的な改革が長年望まれてきました。

経営者保証の割合

・経営者保証を伴う新規融資のケースは年々減少
・経営者交代時の経営者保証では、旧経営者が経営者保証を引き続き負担するケース、後継者が新たに引き継いで負担するケースが均衡

金融庁の公表資料を踏まえると、新規融資及び事業承継時の経営者保証のトレンドは以下の通りとなります。

◆新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合
・2022年度上期では、新規融資における経営者保証を伴わないケースが約33%を占め、3人に1人が経営者保証がない状況で借入を行っていることが分かる。
・過去の推移を見ると、時代の経過とともに経営者保証伴う割合が減少していることが分かる。
◆代表者交代時の保証徴求割合の推移
・事業承継など経営者が交代する場合の経営者保証として、半数が後継者へ経営者保証が引き継がれているる
・過去の推移を見ると、時代の経過とともに後継者が経営者保証を引継ぐ割合が減っていることが分かる。
・背景として、後継者不足が深刻化し、旧経営者自身が引き続き経営者保証のリスクを追ってでも事業承継を進めざるを得ない状況がうかがえる。

出典:金融庁公表資料

経営者保証問題への対策

経営者保証の問題は複雑であり、専門家から適切なアドバイスを受けることが重要

例えば、以下のような経営者保証問題への対策が考えられます。経営者保証の問題は複雑であり、専門的な知識と経験が必要となるため、専門家からの適切なアドバイスを受けることが重要です。

1.経営者保証問題の認識(経営者自身の経営リテラシーの向上)
まずはじめに、経営者自身が経営者保証問題を理解し、そのリスクを適切に認識することが重要です。
借入金を返済できなかった場合にどのような経済的、法的影響があるのかを理解することで、具体的なリスク対策を講じることができます。
2.資金調達の多様化
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの出資、クラウドファンディング、補助金・助成金の活用などを通じて、融資に頼らない資金調達手段を利用することが考えられます。
3.優遇制度の利用
日本政策金融公庫や信用保証協会などが提供する無保証融資や、経営者個人の負担を軽減する各種の支援制度を利用することで、リスクを軽減することが可能です。

経営者保証問題解消へ動き(2023年4月から「経営者保証」の仕組みの見直し)

このように、経営者保証によって企業のリスクが経営者の個人的なリスクに直結するという問題は長年認識され、経営者保証問題を解消するための制度改革が求められてきました。

経営者保証ガイドラインとは?

・「経営者保証ガイドライン」は、経営者保証問題の課題解決のため、経営者保証に関する契約や履行段階等での中小企業及び金融機関による対応についての共通の自主的ルール
2014年の「経営者保証ガイドライン」制定後、経営者保証を伴わない融資の割合が増加し、一定の成果を上げた

経営者保証問題の課題解決のため、経営者保証に関する契約や履行段階等での中小企業及び金融機関による対応についての共通の自主的ルールとして、「経営者保証に関するガイドライン」が2014年2月に策定されました。
当ガイドラインの制定後に、経営者保証を伴わない融資の割合が増加しており、一定の効果をあげております。
※法的な拘束力はないものの、関係者が自発的に尊重し、遵守することが期待されているものです

出典:中小企業庁HP

「経営者保証に関するガイドライン」に基づくと、以下3要件の全てまたは一部が充足されれば、経営者保証なしで融資を受けられる可能性や、既に締結されている経営者保証を見直すことができる可能性があります。

① 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されていること
② 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能であること
③ 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されていること

スタートアップ創出促進保証制度

経営者保証を不要とする創業時の新しい信用保証制度として、「スタートアップ創出促進保証制度」が2023年より運用されている

2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を踏まえ、経営者保証を不要とする創業時の新しい信用保証制度として、「スタートアップ創出促進保証制度」が創設され、2023年3月15日に制度が開始されています。ぜひ、積極的に制度を活用してみましょう!

出典:中小企業庁HP
出典:中小企業庁HP

モラルハザードの可能性(経営者保証がない場合のデメリット)

それでは、経営者保証の撤廃にはデメリットは存在しないのでしょうか?
この点、経営者保証の全面的な廃止がモラルハザードを生む懸念が存在します。すなわち、経営者保証がなくなると、経営者は自身の個人資産が直接的なリスクを負わないため、企業運営におけるリスク管理が甘くなる可能性があります。これが結果的に不良な事業創出を伴い、企業の財務健全性を損ない、最悪の場合、計画倒産など社会問題につながるリスクも無視できません。

しかし一方で、全体的な視点から見ると、事業リスクと経営者の個人リスクを分け、経営者が事業に集中できる環境を整える意義は大きいともいえます。加えて、銀行も経営者保証を頼りにした融資よりも、企業の事業内容や財務状況をより厳しく分析・評価し、その上で融資の判断を下すようになるでしょう。その結果、より健全な融資判断がなされ、企業の健全な成長を支える可能性もあります。

このように、一概に経営者保証の廃止がモラルハザードを生むとは限らず、その影響は多面的であり、その実際の影響を把握するためには、さらなる研究や実証的な分析が必要となります。

また、モラルハザードを防ぐための新たな制度設計や、企業側の内部統制の強化、顧問税理士などによる財務支援コンサルティング能力の向上など、モラルハザードに対応するための対策を検討することも重要でしょう。

まとめ

企業のライフサイクルにおける経営者保証問題

企業の各ライフサイクルにおいて、経営者保証が引き起こす問題は以下の通り。
「創業フェーズ」:新規起業進まない
「経営フェーズ」:新規投資進まない
「事業承継フェーズ」:事業承継進まない

経営者保証の割合

・経営者保証を伴う融資のケースは年々減少
・事業承継時の経営者保証では、旧経営者が負担するケース、後継者が負担するケースが均衡

経営者保証問題への対策

経営者保証の問題は複雑であり、専門家から適切なアドバイスを受けることが重要

経営者保証ガイドラインとは?

・「経営者保証ガイドライン」は、経営者保証問題の課題解決のため、経営者保証に関する契約や履行段階等での中小企業及び金融機関による対応についての共通の自主的ルール
2014年の「経営者保証ガイドライン」制定後、経営者保証を伴わない融資の割合が増加し、一定の成果を上げている

スタートアップ創出促進保証制度

経営者保証を不要とする創業時の新しい信用保証制度として、「スタートアップ創出促進保証制度」が2023年より運用されている

おわりに

本記事を通じて、「経営者保証問題」が創業フェーズ、経営フェーズ、事業承継フェーズで起業経営において深刻なハードルの一つとなってきたことが理解できたと思います。

経営者自身が個人保証人となることで引き起こされる負の影響は、日本社会全体の成長や持続可能性を阻害し、さらには経営者の個人的な生活や家族にまで影響を及ぼす可能性があります。
しかし、最近の動向により、この経営者保証制度の変革が進み、経営者のリスクを軽減し、起業や事業承継にチャレンジしやすい環境が整備されつつあります

このように、経営者保証は、特に起業時や事業承継時に知っておくべき重要なポイントです。
事前にリスクを理解し、専門家への相談などを通じた経営者保証のリスク管理を行うことが必要といえるでしょう。
また、経営者保証を行わないことで生じるモラルハザードについては、それを抑止するための制度設計なども重要です。

経営者保証問題の今後の変化に注目しつつ、“頑張る人が報われる公平な起業エコシステム”創出に向け、国や地方自治体、金融機関が相互に連携しつつ、より健全な制度を作り上げることが、中小企業の持続的な成長と日本経済全体の活性化につながることでしょう。

創業Meister

当記事に関するお問い合わせなどは、以下よりお願いいたします。

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