なお、記事内にあります、「大学発ベンチャー」、「学生起業」の関係性を以下のように捉えて記事を執筆しております。
最初に、頭の中の整理としてご認識いただくと、記事の内容がより理解しやすくなると思います。
大学発ベンチャーの現状把握
日本の大学発ベンチャーのエコシステムは急速に成長しています。
同報告書の最新調査によると、国内の大学発ベンチャーの数は過去10年で倍増するなどその成長率は著しいものです。
特に、東京や大阪、京都といった大都市の大学で多くの新しいベンチャーが誕生しています。
まずは、報告書内に記載のある大学発ベンチャーの現状を見ていきましょう。
大学発ベンチャーの定義
経済産業省による《大学発ベンチャー》の定義
(1)研究成果ベンチャー;
大学で達成された研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー。
(2)共同研究ベンチャー;
創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー。
(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
(3)技術移転ベンチャー;
既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けたベンチャー。
(設立時点では大学と特段の関係がなかったものも含む)
(4)学生ベンチャー;
大学と深い関連のある学生ベンチャー。現役の学生が関係する(した)もののみが対象。
(5)関連ベンチャー;
大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー。
大学発ベンチャーの数
・大学発ベンチャー数は2022年度は3,782社であり、その数は年々増加傾向。過去10年でその数は倍増している。
・2008年度から2014年度にかけての数値は減少(2009年度~2013年度の同報告書が公開されていないため)。これは、2008年~2010年頃のリーマンショックに端を発した金融危機などの影響が、大学発ベンチャー新設や廃業にも影響したものと推察される。
・このように、大学発ベンチャーは今後も増加の一途を描くことが想定されるが、世界/日本での金融危機などマクロ経済の停滞といった影響を受けづらい強靭なエコシステムを構築することが長期的な発展のカギの一つであろう。
大学別の大学発ベンチャー数
・東京大学が最多の371社、京都大学が267社、慶應義塾大学が236社、筑波大学が217社と続く。
・伸び率では、「情報経営イノベーション専門職大学(※1)(+214%)」、「秋田大学(+183%)」、「近畿大学(+161%)」、「高知大学(+156%)」などが上位にランクイン。首都圏や近畿圏以外の地方大学における大学の伸び率増加も目立つ。
・起業数が一桁台の大学も多く、裾野の拡大が課題か。
(※1)専門職大学として2020年4月に開学し、東京都墨田区に拠点を置く、情報技術と経営を融合させた教育プログラムを提供する大学。連携企業や客員教員などと産学連携プロジェクト等を通じて社会との接点を多数設けている。起業を目指す学生には、学内や大学の連携企業等から出資やアドバイスをもらえるシステムも構築している。
外部サイト(情報経営イノベーション専門職大学)
経営人材確保のための支援策
例えば、以下のような経営人材確保のための支援策が提供されています。
(1)教育とカリキュラム:
学生起業を促進するための最初のステップは、起業に必要なスキルの理解です。
そのため、多くの大学では、ビジネス、経営、経済、そして起業に関連する授業を提供しています。また、一部の大学では、より実践向けの起業に特化した学部/学科の創設やプログラムを設けています。
(2)インキュベーションプログラム:
学生が新しいビジネスを立ち上げる際の障壁を減らすことを目指し、事業計画の開発、資金調達、ネットワーキングなどが提供されています。
(3)マッチングやメンター制度:
先輩起業家、業界の専門家、教職員からのアドバイスやガイダンスを提供するメンターシッププログラムを提供しています。社会人経験や経営経験のない学生にとっては、先輩起業家や士業など法務財務の専門家からのアドバイスは、成功への手助けとなります。
(4)イベント(ピッチイベント、講演会など):
ピッチイベントでは、学生がビジネスアイデアを発表し、資金調達の機会を得ることを可能にします。これにより、学生は自分のアイデアを実現するための初期資金を集めることができます。また、起業家による講演会やセミナーを学生や教職員向けに開催することで、起業に対する意識改革が行われています。
(5)ファイナンス(資金)支援:
一部の大学や教育機関は、革新的なビジネスアイデアを持つ学生に対してファンドを通じた資金提供等を行っています。やる気と豊かなビジネスアイデアを持つ学生にとっては、資金調達の難しさが新規ビジネス創出の最大の障壁の一つであることを認識した上での施策です。
学生起業のメリット
時間的な余裕
学生時代は社会人に比べると比較的時間に余裕があり、ビジネスに集中しやすい環境が整っています。これにより、アイデアの探求や起業のための行動に多くの時間を費やすことができます。
学内リソース活用
大学等が提供する研究施設やインキュベーション施設を利用することで、最小限の固定費で起業が可能となります。また、起業相談窓口などを利用することで、資金調達先、専門家、先輩起業家等とのネットワークを構築することもできます。
通常は、これらの学内リソースを無料で利用することができます。
人脈形成
学生起業を通じて様々な業界/分野の人々と出会うことで、起業に限らず人生の視野が広がります。
また、ビジネスパートナーや起業メンター、投資家との人脈も形成されることで、将来的なキャリアにもプラスになります。
自己成長
学生起業家は、自身のアイデアやビジネスを実現するために数多くのチャレンジングな課題に直面します。自由な半面で責任も伴うため、個人としての成長が促され、問題解決能力やコミュニケーション能力、リーダーシップなどが向上します。
就活への好影響
就職活動を行う場合でも、起業時の経験は好影響を与えるでしょう。起業を通じた実践的な事業活動で学んだリーダーシップや経営感覚などの経験値は、就活での面接の場や、社会人になり組織の中で仕事をする場合にも役に立つノウハウです。
学生起業の課題
次に課題となります。通常想定される課題も、捉え方次第で今後の人生にプラスになる経験と捉えることができます。
学業との両立
学生起業家では、「学業」と「ビジネス」の両立が求められるため、時間管理や優先順位付けが難しいことがあります。
一方で、この時間管理や優先順位付けは、社会人になっても必須なスキルであるため、学業と起業の両立を通じて、物事の優先順位付けを学べることは、大変意義ある試みです。
経験や知識の不足
学生起業家は社会人経験がない方も多いため、実践経験不足から投資トラブル等の問題に巻き込まれる可能性があります。
自身のビジネスアイデアの実現に全力を注ぎつつも、マネーリテラシー向上や決算書を読めるスキルの習得など経営者として必要なスキルの習得も行いましょう。
ネットワーク不足
社会人と比べてビジネス界での経験が少ないため、外部ネットワークが少ないことが挙げられます。
一方で、LinkedInやTwitterなどのSNS等プラットフォームを活用すれば、ビジネスに関連する多くの人々と効率的にネットワークを作ることができます。
失敗への対処やプレッシャー
学生起業家は、一般的に、人生での失敗経験が少なくビジネスにおけるリスク感度も低いです。このような経験不足から、失敗を未然に防ぐための対処や失敗をした後の対処など、これまで経験したことのない課題が待ち受けており、プレッシャーやストレスがたまることもあります。
この点、失敗から学び再び立ち上がる力や、問題解決能力が求められると共に、不安を抱えた際には信頼できるメンターなどに相談できる体制を整え、一人で問題を抱え込まないようにすることが必要です。
資金不足
一般的には、自己資金や日本政策金融公庫からの借入で起業する方が多く、日本企業の創業時資本金平均額300万円(総務省統計局のデータ)という金額を学生が準備することは容易ではありません。
将来的に会社を大きくしていきたいという希望は持ちつつ、まずは初期投資が小さく、必要資金が余りかからないビジネスからはじめてみることを視野に入れると良いでしょう。
(参考)一般的な起業時の資金調達方法
《大学発ベンチャー》と《一人で学生起業》というキーワード
「大学発ベンチャー」というフレーズは、しばしばその本質的な難易度と厳密さを伴って感じられるワードであり、多くの場合、創新的な技術やアイデアを中心に、研究者や教授、学生たちが協力して創り上げるスタートアップを指します。
この場合、多くの学生は、大学発ベンチャーを立ち上げることは難しく、また高度な専門知識と資源が必要だと認識する傾向にあります。
一方で、「一人で学生起業」といったワードは、その親しみやすさや個人的な自由度を連想させ、起業への意識を喚起しやすくなる傾向にあります。この敷居の低さは、学生自身の興味や情熱に基づくアイデアを呼び起こすとともに、大きな組織構造や制度上の束縛からの解放、自由な形での起業といったイメージを連想させることができます。
その結果、学生は”起業”という概念を自身の能力や目標と結びつけやすくなり、実現可能な挑戦として起業を考えることが容易になります。この認識の差は、学生起業家のマインドセットと自信に大きな影響を及ぼします。
私たちは、《大学発ベンチャー》と《学生起業》のいずれも価値があり、両方が学生にとって挑戦可能な人生での自己実現の手段であることを強調し、教える側と学ぶ側のマインドセットを図ることで、よりよい起業エコシステムを築き上げることができるのではないかと考えます。
まとめ
大学発ベンチャーの数
大学別の大学発ベンチャー数
経営人材確保のための支援策
学生起業のメリット
学生起業のデメリット
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