地域おこし協力隊の概要
地域おこし協力隊は、地方自治体が地域資源を活用した取組みを推進するため、その計画に賛同し活動を行う意欲ある人材を募集・配置する制度です。これは、日本国内の地方の活性化を目指す一環として、総務省により設立され、2009年より制度化されました。
制度の目的は、地方自治体の地域おこしの取組に対する支援と、新たな住民や活動人口を地方に呼び込むことにあります。具体的には、地域資源を活用した地域おこしの取組みを推進し、新たな住民や活動人口を地方に呼び込むことを目指します。そのため、地域おこし協力隊の隊員は地方自治体や地域団体と協力し、地域振興のための企画立案や事業実施を行うことが求められます。
そして、隊員の中には、地域資源を活用した観光事業を立ち上げる者、地元産品のブランディングを手掛ける者など様々なバックグラウンドを持つ人々がいます。彼らは地方自治体や地域に対して新たな視点やアイデアを提供し、地域の振興に寄与するとともに、地域とともに自らも成長していくことを期待されています。
歴史を見ると、地域おこし協力隊は国の地方創生戦略の一部として位置づけられ、その重要性が認識されてきました。一部地域では協力隊が活躍することで地方の活性化が進み、新たな事業やイベントの開催、地域資源の有効活用、人口の増加などの成果を上げています。
このように、地域おこし協力隊は地方創生の一翼を担う存在であり、地方の振興と個々の隊員の成長を両立させるという重要な役割を果たしているのです。
地域おこし協力隊の特徴
地域おこし協力隊職員の特徴
地域おこし協力隊は以下のような特徴を有します。
●隊員の約6割が男性/4割が女性
●隊員の約7割が20代~30代
●隊員の任期は約1年~3年
●任期終了後、約65%が同じ地域で定住
●任地と出身地が同じ割合:28%(すなわち、出身地ではない場所での就労ケースが72%)
●配偶者の有無:有・同居→25%、有・別居→11%、無→64%
●子供の有無:有・同居→12%、有・別居→11%、無→77%
●総務省が隊員1人につき報償費等として年間280万円、活動費(活動旅費・消耗品費・事務的な経費・研修等経費など)として年間200万円をそれぞれ上限に地方自治体に対して交付
●給与額は各自治体により異なるが、額面で20万円前後のケースが多い
●総務省は令和8年度に「地域おこし協力隊」を10,000人に増加させる目標を立てており、今後もその数は拡大見込み(令和4年時点で約6,400人)
都道府県別隊員数
上位5団体は以下の通り(%は、全国に占める各都道府県の割合)。上位5自治体で、全体の約1/3を占める。
1位:北海道(943人、14.6%)
2位:長野県(421人、6.5%)
3位:福島県(281人、4.4%)
4位:高知県(270人、4.2%)
5位:新潟県(253人、3.9%)
地域おこし協力隊による起業
「地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果概要」によると、
●任期終了後、およそ65%の隊員が同じ地域に定住
●同一市町村内に定住した者は4,292人。内訳は以下の通り
– 約42.4%(2,174人)が起業
– 約38.4%(1,970人)が就業
– 約11.6%(593人)が就農・就林等
●また、数は多くはないものの、1.1%(57人)が事業承継を実施
起業時の業種選択動向
「令和4年度 地域おこし協⼒隊の隊員数等について(総務省 地域⼒創造グループ地域⾃⽴応援課)」を基に、業種別にまちおこし協力隊の起業時の業種選択動向は以下の通り。
「その他」が40%存在することからも、多様な業種での起業機会が存在することが読み取れますが、これは、自己の趣味や夢などを実現する手段の一つとして機能していると捉えることもできるでしょう。
– 飲食サービス業(古民家カフェなど):14%
– 宿泊業(ゲストハウスなど):11%
– 美術工芸、デザイナ委、写真映像業など:10%
– 小売業(パン屋、移動販売、農作物通販など):9%
– 6次産業(ジビエなど食肉加工など):6%
– 観光業(ツアーガイドなど):6%
– まちづくり支援業(地域ブランド作りなど):4%
– その他:40%
なお、地域おこし協力隊の任期終了の日から起算して前1年以内または任期終了の日から1年以内に地域おこし協力隊員としての活動地と同一市町村内で起業することを条件に、100 万円(1人)を上限として創業時の手当てが支給される制度の活用もあるため、起業を予定する方は視野に入れておきましょう。
都道府県別定住率ランキング
全国平均の定住率(任期終了者数に占める定住者)が65.4%のところ、70%を上回っている自治体と、60%を下回っている自治体に整理した結果は以下の通り。
(※東京都(85.7%)、大阪府(100%)、神奈川県(66.7%)は、サンプル数の少なさや都心性を考慮して除外)
都道府県ごとの定住率の差異については、以下のような要因が考えられます。
1.生活環境:
住環境や教育環境、医療環境など、生活の基盤となる環境が整っている地域では、隊員が定住しやすいと考えられます。
2.地域の魅力:
文化的な魅力や自然環境など、地域独自の魅力が高い地域は、ビジネス化にも繋がり易く隊員が定住しやすいと考えられます。観光資源や地域の伝統文化、地域の特産品などがこれに該当します。
3.地域コミュニティとの結びつき:
地域の人々との深い関わりや共感、地域のネットワークへの参加など、地域とのつながりが深い地域では、隊員が定住しやすいと考えられます。
4.移住支援策や起業支援策:
自治体の提供する移住施策や起業支援施策が充実しているほど、隊員は新しい生活の基盤を地域で構築しやすくなります。
地域おこし協力隊の今後の発展に必要な要素
新たな土地での生活、未知の課題への対応、地域の慣習や文化への理解など、地域おこし協力隊としての活動に伴う難しさは様々です。その中でも特に大きな課題の一つが「現地への溶け込み」であり、これによりトラブルが生じることも多いです。
地域の文化や習慣、問題点を理解するには、実際にそこで生活している人々とのコミュニケーションが不可欠です。また、先輩協力隊は地域に根ざした活動の経験者であり、その知識や経験は新たな隊員にとって貴重なガイドとなります。
また、せっかく築いた地域コミュニティの価値を最大化するために、現地への定住や現地での起業を支援する制度も必要です。
このような観点から、地域おこし協力隊の地域おこし協力隊の今後の活躍のために必要なことを以下に3点まとめました。
ネットワーキング(コミュニティ形成)
①選択時:
地域おこし協力隊への参加を検討する段階では、地域おこし協力隊OB・OGや先輩着任者などとのネットワーキングなどは大変有益です。地域での活動の様子や経験、困難だった点など具体的な情報を得ることができると、自身の期待値と地域の現状とのミスマッチを防ぐことができます。また、自身が抱くビジョンやアイデアが地域とマッチするかどうか、客観的な意見を求めることも可能です。
②任期中:
任期中には、様々な課題や困難が生じる可能性があります。このような時、既に任期を終えたOB・OG、他地域の同業仲間、自治体職員などとのネットワーキングは重要な心の支えとなります。彼らの経験や知識、視点を借りることで問題解決のヒントを得たり、新たな取り組みへのアドバイスを得ることができます。
③任期後:
任期終了後も、地域おこし協力隊のネットワークは大きな価値を持ちます。
赴任地への移住や赴任地での起業を行う場合にはにこれまで築き上げたコミュニティは有益な財産となりますし、また、新たなキャリアチャンスを見つけるためのきっかけとなる場合もあります。
兼業・副業しやすい環境
兼業や副業が認められれば、隊員は別の収入源を持つことが可能となり、経済的な負担が軽減されます
さらに、副業や兼業を通じて協力隊員は新たなスキルを身につける機会を得ることができます。これは地域振興活動だけでなく、将来的な起業にも役立つことでしょう。また、副業や兼業を通じて得たスキルや経験、ネットワークが地域振興活動に活かされる可能性もあります。
そして、副業や兼業が認められることで、地域おこし協力隊員が自身のビジネスを立ち上げやすくなります。自分のビジネスを持つことは、地域に根を下ろす大きな動機となり、その結果、定着率の向上につながると考えられますし、自身のビジネスが成功すれば、地域経済の活性化にも寄与します。
これらの理由から、自治体が副業や兼業を認めることは、地域おこし協力隊の定着率や起業率を上げるための重要な施策と言えます。
就業関係
ご参考までに、地域おこし協力隊と各自治体との間の就業関係は以下の通りとなっています。
※基本的には、個人事業主の方が副業や兼業を行うことのできる可能性が高まると考えられます。
●フルタイム又はパートタイムで自治体と雇用関係で働いている隊員:全体の約70%
●雇用関係はなく個人事業主として働いている隊員:全体の約20%
また、兼業・副業が制限されていて自治体の許可を得ることができない割合については、H29調査における34%からR4年調査では24%に改善しており、今後の更なる兼業・副業機会の拡大が見込まれます。
起業ノウハウ習得の機会
起業を成功させるためには、ビジネスの基礎知識や具体的なスキルが必要となります。これには、マーケティング、財務管理、事業計画の作成などが含まれます。これらのスキルを習得することで、隊員は自分のビジネスを計画し、立ち上げ、運営する能力を高めることができます。
そして、自分のビジネスを持つことは、隊員が地域に定着する大きな動機となります。自分のビジネスを地域で立ち上げ、成功させることは、協力隊員が地域に更なる価値を見出し、地域と深く結びつくための道となるからです。
また、自身のビジネス経験は、他の隊員や地域住民に対する良いモデルケースとなり、他者の起業を助け、地域全体の起業率を向上させる可能性もあります。
その他、「認定特定創業支援等事業」との親和性も高いと思われます。
起業時のコスト負担を最小化し起業を行うことができる環境は、起業失敗リスクの低減のみならず、起業意欲の増大ももたらします。
まとめ
地域おこし協力隊の特徴
都道府県別派遣数
地域おこし協力隊による起業
起業時の業種選択動向
都道府県別定住率ランキング
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