「資本政策」タスクのポイント
まずは、「資本政策」タスクの全体像をざっと理解したいです。
はい、分かりました。
「資本政策」タスクの全体的なポイントを、シンプルに以下の通りまとめましたので、理解しておきましょう。
What? (何を) | 資本政策の策定 |
When? (いつ) | 定款に株式に関する情報を記載する必要があるため、定款認証まで |
Who? (誰が) | 「各自で作業(自製)」 又は 「専門家(公認会計士等)へ委託(外注)」 |
How? (方法) | 自製のケース:資本政策表テンプレートを用いて作成 |
How long? (期間) | 作業時間:数時間 |
How much? (費用) | 自製のケース:無料 外注のケース:数十万円 |
「資本政策」タスク記事のまとめ
これから、「資本政策」タスクに関する手続きなどを説明しますが、
結論をまずは知りたい方のために、記事内容を簡潔にまとめます。
よろしくお願いいたします。
- 事前理解
(1)資本政策とは?
・「資本政策」とは、最適な持株比率を保持しつつ資金調達を実施すること。
(2)創業時に資本政策が必要なケース
・例えば、以下のようなケースでは、資本政策の策定が推奨される。
- 将来的に、株式上場やM&A(会社売却)を目指すケース
- 数名の創業メンバーで事業を開始するケース
(3) 資本政策の必要性
・一度発行した株式を取り戻すのは困難(= 資本政策の不可逆性)のため、中長期的な視点で資金調達シミュレーションを行い、計画的な資金調達を行うことが必要。
(4)各フェーズごとの資本調達目安
・一般的には、以下の株式比率を目安に、各フェーズごとの創業者株式比率を検討する。
- 発行済株式の2/3超(特別決議事項)
- 発行済株式の1/2超(普通決議事項)
- 発行済株式の1/3超(特別決議拒否権事項)
(5)資本政策の失敗事例
① 株式希薄化
・特に創業期など資金調達が必要な時期に、株式の大半を外部投資家に売却してしまうことで、創業メンバーの経営権が喪失するケース。
② ストック・オプションの設計
・IPOを機に、役員・従業員がストック・オプションを行使して大量退職し、古株の優秀な人材が抜けてしまったことで事業が計画通り進められなくなるようなケース。
③ 発行株式の過少性
・設立時に発行した株式数が少なすぎ、投資家やVCの持株比率やストック・オプションの付与量を細かく調整できないケース。
④ 不当に高いバリュエーション設定
・企業価値を想定以上に高く設定し資金調達が成功したとしても、次の資金調達ラウンドでそれ以上のバリュエーションを達成できず、資金調達が困難になるケース。 - 事前準備
(1)資本政策表の準備
・資本政策表をダウンロード - 領域専門家
・「公認会計士」など - 利用サービス
・自製のケース:「資本政策表」の活用 など - 作業手順
Step 1(収支計画の策定)【数時間】
(1)収支計画の策定
Step 2(資本政策表の策定)【数時間】
(1)ラウンドと目標の設定
(2)各ラウンドごとの企業価値や持株割合等の設定
Step 3(収支計画への反映)【20分程】
(1)作成した資本政策表の内容を収支計画へ反映
なるほどです…
私はもう少し詳細に教えて欲しいので、解説をお願いします。
「資本政策」タスクの事前理解
「資本政策」とは何ですか?
「資本政策」については、以下をご確認ください。
資本政策とは?
・「資本政策」とは、最適な持株比率を保持しつつ資金調達を実施することを指す。
・トレードオフの関係にある「資金調達」と「持株比率(※1)」のバランスを適切に保つ検討を事前に実施すことが、資本政策の重要なポイントである。
(※1)「株式比率」を適切に保つことにより、【経営権】や【株式利益(株式売却益や配当)】といった株主利益を確保することが可能となる。
創業時に資本政策が必要なケース
ちなみに、一人会社でも、資本構成の検討は必要ですか?
一人会社であっても、会社を大きくして将来的に株式上場を目指すケースの場合には、資本政策を事前に検討しておくとよいでしょう。
・例えば以下のような場合には、資本政策の策定が推奨される。
- 将来的に、株式上場や企業価値を高めて会社の売却を予定(M&A)するケース
- 数名の創業メンバーで事業を開始するケース など
なお、一人会社で資金調達を行う場合には、親族からの借入や日本政策金融公庫などの金融機関からの融資が、当初の資金調達手段として挙げられることが多いです。
このようなケースでは、自身の株式比率を基本的に100%に維持したまま事業活動を開始することが可能です。
資本政策の必要性
資本政策の概要は理解できましたが、
そもそも、資本政策は、なぜ創業時に実施すべきなのですか?
資本政策は、基本的に、一度策定してしまうと後戻りができません。
よって、創業時に適切な資本政策を策定しておく必要があります。
・一度発行した株式を取り戻すのは困難(= 資本政策の不可逆性)のため、中長期的な視点で、創業時に資金調達シミュレーションを行い、計画的な資金を調達を行うことが必要。
各資金調達シリーズ(ラウンド)ごとの資本調達目安
会社を将来的に大きくしたいと思いますので、資本政策を検討してみたいと思います。
資本政策時に目安となる企業価値や株式保有比率などの情報を教えて頂けないでしょうか?
以下の表をご確認ください。
シリーズ | 概要 | シリーズ(目安) | 資金調達額企業価値 (目安) | Post-資金調達先 | 主な(目安) | 資金調達期間(目安) | 株式希薄化率
---|---|---|---|---|---|---|
エンジェル期 | 起業前の アイデア 段階 | 100~ 1,000万円 | 1,000万円~ 1億円 | ・自己貯金 ・親族等借入 ・日本政策金融公庫 ・エンジェル投資家 | 数日~数週間 | 10%~30% |
シード期 | サービス大枠 決定段階 | 1,000~ 5,000万円 | 1~5億円 | ・自己貯金 ・親族等借入 ・VC ・日本政策金融公庫 | 数日~3ヶ月 | 10%~30% |
アーリー期 (プレシリーズA) | サービス 検証段階 (α版,β版) | 5,000万円~ 1億円 | 5~10億円 | ・VC ・日本政策金融公庫 | 3~6ヶ月 | 10%~30% |
シリーズA | サービス正式 リリース段階 (正式版) | 数億円 | 10~30億円 | ・VC ・日本政策金融公庫 ・金融機関 | 半年程 | 10%~30% |
シリーズB | サービス 拡大段階 | 数億円~ 数十億円 | 数十億円以上 | ・VC ・金融機関 ・事業連携先 | 半年程 | 数%~20% |
シリーズC | 経営安定化 段階 | 数億円~ 数十億円 | 数十億円以上 | ・VC ・金融機関 ・事業連携先 | 半年程 | 数%~20% |
また株式に応じた経営権(議決権)を適切に検討する必要があります。
以下の3つの株式比率が目安の数値となりますので、株式を発行する際の目安としましょう。
<目安数値>
① 2/3超(特別決議事項)
② 1/2超(普通決議事項)
③ 1/3超(特別決議拒否権)
それぞれのケースで生じる権利の一例を、以下の通りまとめておりますのでご参考にしてください。
特別決議事項 (比率”2/3 超”のケース) | ・事業譲渡 ・合併契約、吸収分割、株式交換 ・定款変更 ・譲渡制限株式の買取 ・全部取得条項付種類株式の取得 ・募集株式・募集新株予約権の発行における募集事項の決定 ・株主に株式・新株予約権の割当を受ける権利を与える場合の決定事項の決定 ・資本金の額の減少(減資) ・現物配当 ・解散 など |
普通決議事項 (比率”1/2 超”のケース) | ・資本金及び準備金の額の増加 ・準備金の額の減少 ・剰余金の処分及び剰余金の配当 ・自己株式の取得 ・役員の選解任 ・計算書類の承認 など |
特別決議拒否権 (比率”1/3 超”のケース) | ・特別決議に対する拒否権 |
「資本政策」に関する失敗事例
また、資本政策は、後戻りができません。
だからこそ、失敗事例などを研究し、同じ間違いを行わないようにしましょう。資本政策上の代表的な失敗事例を以下に記載しておきます。
① 株式の希薄化
・特に、創業期など資金調達が必要な時期に、株式の多くをエンジェル投資家など外部の投資家に売却してしまうことで、創業メンバーの経営権が喪失し、安定的な事業経営が出来なくなるケース。
② ストック・オプションの設計
・ストックオプションの発行条件などを十分に検討せず発行してしまい、IPO後に主要な役員や従業員の多くが退職してしまうことで、事業経営に甚大な影響を与えるケース。
・当該リスク対応のため、ストックオプション発行後の一定の期間の間は、ストックオプションの効力が発生しないものとしたり、設定期間の経過前に会社を退職等した場合には、ストックオプションを行使できないものとする「ベスティング(Vesting)条項」を設ける等の対策が必要。
③ 発行可能株式総数
・設立時に発行した株式数が少なすぎて、投資家やベンチャーキャピタル(VC)の持株比率やストック・オプションの付与量を細かく調整できないケース。
・例えば、100万円の資本金を100株(1株当たり1万円)発行する場合、1%の範囲でしか株式の売却を実施することができないが、10,000株(1株当たり100円)を発行していると、0.01%の範囲で株式の調整を行うことができる。発行可能株式総数の変更は、変更登記申請が必要となるため、会社設立時から留意が必要。
④ 不当に高いバリュエーション設定
・企業価値を想定以上に高く設定し資金調達が成功したとしても、次の調達ラウンドでそれ以上のバリュエーションを達成できず、資金調達が困難になるケース。バリュエーションは適切な範囲内で設定し交渉することに留意が必要。
⑤ VC策定の資本政策への依拠
・会社側では資本政策を立案することなく、VCが策定した資本政策に依拠して増資を行うケース。この場合、想定よりも低い株価で増資が実行されるため、創業者の持株比率が大幅に低下する可能性があるため、会社側で専門家を別途起用するなどして、資本政策を適切に立案することが必要。
⑥ 税金(課税)リスク
・第三者からの株式評価鑑定書等を取得せず、関連当事者同士で税法上の時価よりも著しく低い価格で増資したり株式譲渡した結果、課税リスクが生じるケース。税理士など専門家に適切に相談することが必要。
メモメモ…
「資本政策」タスクの事前準備
「資本政策」タスクを自製する場合、事前準備には何が必要ですか?
自製する場合には、事前に「資本政策表(エクセルシート)」を準備しておきましょう。
- 資本政策表の準備
「資本政策表」の準備(資本政策に関する事例の確認)
・資本政策表とは、各株主の株式保有比率等を時系列に示した表。
「資本政策」の事例を多く取り扱うのは、会計財務の専門家である公認会計士
資本政策の支援を外注する場合には、どのような専門家に依頼すべきですか?
会計や財務の専門家である公認会計士へ委託する方が多いと思います。
・公認会計士 など
「資本政策用テンプレート」の活用や、公認会計士など専門家へ外注
「資本政策」タスクを自製するために参考となるサービスがあれば教えてください。
以下を参考にしてください。
利用サービス(自製のケース)
・まずは、インターネット上の無料の資本政策テンプレート(エクセル)などを利用。
利用サービス(外注のケース)
・会計や財務など全般的な知見を有する公認会計士への依頼することが多い。
「資本政策」タスクの作業手順
さて、本題となりますが、
「資本政策」タスクの作業について教えてください。
「資本政策」タスクを自製する場合の、作業手順概略は以下の通りです。
作業手順概略
(1)収支計画の策定
(1)ラウンドと目標の設定
(2)各ラウンドごとの企業価値や持株割合等の設定
(1)作成した資本政策表の内容を収支計画へ反映
作業手順説明
Step 1(収支計画の策定)
資本政策表を作成するための土台として、収支計画が必要です。
できれば、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)があるとベストですが、最低限必要な資料としては、損益計算書(PL)を作成し、売上高や利益水準は把握しておきましょう。
事業収支計画の策定で参考になるマニュアルなどはありますか?
収支計画の策定については、日本政策金融公庫の雛形を活用した作成方法を以下の記事でご紹介しておりますので、参考にしてください。
Step 2(資本政策表の策定)
次に、資本政策表作成のポイントを教えてください。
資本政策表を各自で作成する場合には、一般的にはエクセルテンプレートを活用します。
入力すべき箇所に関する指示などがある場合(入力すべきセルに色付けされている場合など)が多いため、その指示に従いつつ、一般的には、以下のような流れで資本政策表を作成します。
(1)ラウンドと目標の設定
「いつ」までに、どのような「イベント」をもって、「各ラウンド」を迎えるのかを決定します。例えば、以下のイメージで、ラウンドごとの目標設定を行います。
(例)
・「各ラウンド」:エンジェルラウンド
・「いつ」:2023年3月まで
・「イベント」:主要メンバーの確定
(2)各ラウンドごとの企業価値や持株割合等の設定
また、各ラウンドごとに、企業価値や持株割合等を設定します。「企業価値」や「持株割合」については、各フェーズごとの一般的な目安(上記「各フェーズごとの資本調達目安」)を参考として設定してみましょう。
Step 3(収支計画への反映)
最後に、資本政策表にて検討した資金調達方針に基づき、収支計画をアップデートします。
具体的にはどのような勘定科目に影響しますか?
通常は、貸借対照表やキャッシュフロー計算書の「資本金」の金額に影響を及ぼします。
おわりに
確認が終わりましたら、必要に応じて以下の記事を参考にしましょう。
「資本政策」関連タスク
資本政策が決まりしましたら、事業計画書の更新を行いましょう。
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